部屋の照明を全て落とし、ランプに火をつける。
ゆらゆらと絶え間なく形を変える炎を見つめていると、
なぜか心が穏やかになった。
ソファに深く体を沈め、そっとまぶたを下ろすと、
炎の残影が微かに浮かんでいた。
シャワーを浴びたばかりの火照った肌が、
開け放した窓からの夜気で冷えていくのがわかる。
風を受けた炎が大きく揺らめき、レイアは薄く目を開けた。
自分を救えるものなど誰一人としていないのだと、
手首の傷が大声で訴えているのに
、こんなにも救われたくて仕方なく、見捨てられたくて仕方なく、
混乱した頭を冷ますには、炎を見つめるのが一番いい。
炎の中には何かが映るのだという。
今一番望むものを映すのだという。
レイアは、その中に何も見えないので、
自分は何も望んでいないのだと考えかけて辞めた。
炎の向こう側に、人影を見つけたから。
彼は、怒っているような表情でドアのところに佇んでいたが、
手に持った二つのコーヒーカップをちらりと見ると、
小さく息を吐いて歩み寄ってきた。
テーブルにカップを置くと、
ベッドから毛布を取ってきてレイアの目の前に立つ。
レイアはその様子を逐一目で追って、無表情のまま彼を見上げた。
「邪魔をしたなら謝るが、今起きているのは感心しない」
「死にたいのか、とはもう問わないのか?」
「返ってくる答えはもう知っている。
何度も聞かされたからね。
ベッドに入って大人しくしていることが出来ないのなら、
せめてそんな薄着でうろつくのだけはやめてもらいたい。
私の寿命が縮まる」
彼の言葉に、レイアは肩をすくめて手を伸ばした。
彼が手渡してくる毛布を肩からかけて、
ランプに金属の蓋をする。
窓から漏れてくる月明かりに目が慣れるのに、
時間がかかるだろうと思われたので、
レイアは目を閉じてソファの上に横になった。
ベッドに行けと叱られるかと思ったがそれはなく、
彼が傍で跪いたのがわかった。
頬に触れられ、目を開けることを禁じるように大きな手が覆う。
唇を柔らかく押し包むものがあり、レイアは全身から力を抜いて、
彼に身を任せた。口付けに性急さはなく、
ただ途轍もなく大きく暖かな愛だけが、レイアの心を満たしていた。
望むものがないというのなら、
それはきっと全てを手に入れているから。
これ以上の幸福はないと思っているし、
これ以上の幸福を得ようとも思わない。
例えそんなものがあったとしても、
それを得てしまうのはあまりにも恐ろしいのだ。
失うことしか考えられないなら、いっそ求めることも止めてしまう。
今ここにあるものだけで満足していれば、
きっとそれ以上傷つくこともないのだ。
目を開くと、間近で彼が見つめていた。
レイアは、無表情を崩して微笑を浮かべる。
彼は、一瞬驚いたような顔をして、
次に涙を堪えるように眉を寄せた。
しかし、涙は彼の意を反して流れ出る。
頬を伝う雫を、レイアは親指でそっと拭ってやった。
「……泣くな、エディ」
名を呼ぶと、彼は堅く目を閉じ、そして開いたが、
涙は止まることがなかった。
レイアは、エディの頭を胸元に抱き寄せる。
エディの体は小刻みに震えていた。
いたわるように、そっと髪を撫でる。
エディは、しばらく泣き止むことが出来なかった。
つづく
(2006年2月22日発行 個人誌より転載)
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