目が覚めて、自分が眠っていたことに気づく。
頭が回転していない。
重いまぶたを押し上げて周囲を見ると、そこは自室だった。
柔らかな羽毛布団をそっとのけて、ベッドを降りる。
暖を入れているはずなのに、それでもやはり窓辺では息が白くなった。
……自分が何かを忘れている自覚はあったが、
果たして何を忘れているのかは思い出せなかった。
はらはらと空から舞っているものがあった。
……雪だ。庭を見ると、もうだいぶ積もっている。
点々と、青白く光る足跡を見つけた。
それを辿って、アエンは息を呑む。
薄い夜着を、肩に羽織っただけのルドルフが、
空を見上げて佇んでいた。
そんな姿では凍えてしまう、
と外に飛び出すために動かそうとした足は固まってしまった。
アエンを固定するように、
後ろから伸びてきた手が窓を押さえた。
ガラスに映ったその顔を見て、血液が逆流する。
首筋に口付けられた。
下半身を撫でられ、侵入してくる指は、
まるで長い時間外気にさらされていたように冷え切っている。
一度目を閉じ、再び開くと、庭の足跡はなく、
ルドルフは今まさにアエンを求めて切ない口付けを繰り返していた。
幻を見たのだ、とアエンは自分に言い聞かせ、
下半身に伸ばされているルドルフの手を掴んだ。
体を反転させて窓に押し付け、唇を重ねる。
<中略>
「……あなたは何者なんだ……?」
ルドルフが口元に不思議な笑みを刻む。
アエンの手をとって、その指を口に含み、
誘うように舌をちらつかせる。
アエンは、床の上にルドルフを押し倒して、
上からその瞳を覗き込んだ。
指を絡めてカーペットに固定する。
プラチナブロンドが広がって波打ち、
窓からもれてくる弱々しい日光を乱反射した。
「私はね、アエン……」
ルドルフは、重要な告白をするように潜めた声で言った。
「お前でなくとも良かったのだよ。
他の誰だって……私を抱くことが出来るのなら」
「……私である必要はなかったと、そう言うのか」
「そう」
ルドルフは、すっと目を細めて、口元の笑みを深くした。
「愛する必要も愛される必要もない。
ただ……排泄のためだけに私を傍に置けばいい。
それならば、離れるときに心を痛めることもない」
「……ルドルフ」
「それなのにお前は……いや、私は」
ルドルフの目尻から、雫が流れた。
それはただ一筋だけ流れて、何事もなかったかのように消えた。
「私は……お前をかけがえのないものだと、思ってしまった」
アエンが、目を瞠く。
「……愛されたいと……お前を愛していると」
ああ、ルドルフ……。あなたはなぜそんなにも、
苦痛に満ちた瞳で愛を告げるのか。
あなたの苦しみの根源に私がいるならば、私は自殺すら厭わないよ。
「許して欲しい……」
こんなつもりはなかった、と呟くルドルフの唇を、
アエンはいたわるように塞いだ。
つづく
(2006年2月22日発行 個人誌より転載)
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