2013年1月24日木曜日

序章Ⅱ <5>


窓から優しい風が吹き込んできて、カーテンを膨らませ、
そしてレイアの髪を乱した。

ソファに腰掛けたレイアの膝を枕に、エディが眠っている。
レイアは、その髪を、頬を、飽くこともなく撫でている。

静かな風が、そっと囁きかけてくれる。
レイアは、そっと微笑んだ。
エディの頬には、幾筋もの涙の痕がある。

不意に、エディのまつげが震えてその瞳が開かれた。

「……レイア?」

そこにレイアがいないことを恐れるように、エディが囁いた。
答えるようにその手を握ると、エディの体から力が抜けた。

「……怖い夢を見た? エディ」
「夢なら……良いと思う」

夢などではない。エディは、言外に言っていた。

「もう少し眠るといい。……こうしているから」
「レイア……」
「それとも、私の膝は居心地が悪いか?」

エディは、レイアの白く繊細な指を口元に寄せて、
そっと口に含んだ。

「あなたと一つになりたい」

言ってから、そっと首を振る。

「……忘れてくれ」

レイアは、エディの唇をなぞり、
しばらく触れていたが、結局離した。
そして、エディの頬に手をかけ、顔を上げさせる。

視線がぶつかると、エディの少し腫れぼったい瞳が見上げてきた。

「叶わぬことだと思っている?」
「私が、あなたと何をしたがっているのか、わかってるのか?」
「わからないほど子供じゃないさ」

エディは、少し驚いたような顔をしたが、やがてふと笑った。

「……私にそんなことはできないと思っているな、レイア」
「試してみればいい」
「その気はない」

吐息と共に呟いて、エディは再び目を閉じた。

「……その気はない?」

「レイア、あなたの体なら、見ていない所はない位に知っている。
今の状態もね。その上で、あなたに負担はかけられない。
一度あなたの肌を知ってしまえば、きっと私は夢中になる。
だから、あなたを抱くことは私にはできない」

「できないことを言うものじゃないな」

レイアの言葉に笑みが含まれていたので、エディは目を開け、
口元だけで笑った。

「……そうだな」

レイアの指が頬をなぞる。
エディはその手を掴み、袖をまくった。
レイアが怯えたように手を引こうとしたが、許さなかった。

「昨夜も切ったのか?」
「……ああ」
「……」

エディは、何も言わずにそっと傷跡に唇を寄せた。

「もう切る必要もないのだがな、エディ」
「……うん?」

「私は幸せだったよ。こんな体にならなければ、
お前とも出会えなかっただろう」

エディは、すこしだけゆっくり目瞬きをして、
レイアの言葉の意味を考えた。

「レイア、なぜ過去形で話すんだ?」
「過去の話をしているからさ」

レイアが、そっとエディの瞳を覆う。

「……お願いがあるんだ」




つづく



(2006年2月22日発行 個人誌より転載)


0 件のコメント:

コメントを投稿