カタカタという音に目を覚ますと、そこはレイアの部屋だった。
昨夜のことが思い出せずにベッドの方を見ると、
レイアが頭まで毛布を被って眠っていた。
いつもなら、傍まで行って呼吸をしているか確かめるのだが、
今日はここからその小さな山が上下するのを、確認するのに留めた。
エディは、ソファの上に横になって、
レイアのもう着ることもなくなったカシミヤのコートをかけられていた
サイドには、すっかり冷め切ったコーヒーカップが二つ置かれており、
片方……レイアがいつも使っている方は空だった。
ふと……カップの下に紙片を見つける。
レイアの書く、癖のある字で、メッセージが書かれていた。
エディは、その文字をそっとなぞって、ベッドの方を見た。
毛布の小山がもぞもぞと動いて、
寝ぼけ眼のレイアの頭がひょっこりと覗く。
「……おはよう、レイア」
声をかけると、レイアはこちらに笑いかけ、挨拶を返そうとした。
が、それは激しい咳によって阻まれる。
「レイア……っ!」
蹲って咳を繰り返すレイアに駆け寄り、
エディはその背中をさすろうとして、目を見開いた。
シーツが真紅に染まっている。
「レイア……?」
ようやく治まり、肩で息をするレイアを、覗き込む。
レイアは苦しそうに眉を寄せ、再びベッドに横たわった。
その顔を、こちらに向ける。レイアは吐血していた。
「……エディ……」
かすれる声がエディを呼ぶ。
「エディ……?」
「ここにいる」
手を握ってやると、レイアは安心したように小さく微笑んだ。
「……傍にいてくれ。多分、私はもう……」
「言うな」
「エディ、逃げても仕方ない」
「逃げるわけじゃない。……とにかく、一度診察をしよう」
「意味がない」
「レイア!」
声を荒げてから、後悔する。
レイアは、悲しげな瞳をしてこちらを見、次に目を閉じた。
「……レイア、頼む。一度診せてくれ。……お願いだ」
レイアの口元を、袖口で拭う。
レイアは、その手をそっと押さえて、エディを見た。
「それで、お前の覚悟が決まるなら」
「そんな風に言わないでくれ……」
「でもそういうことだ」
「レイア……」
エディの腕が、レイアを抱きしめる。
離さない、離したくないと、切実に訴えるその腕を、
レイアはじっと受け止めていた。
運命を負わされた者はそれを受け入れるしかないが、
その者を見守ることしか出来ない者は、どうしたらよいのだろう。
レイアの頬を、一筋の雫が零れ落ち、消えた。
つづく
(2006年2月22日発行 個人誌より転載)