荒い息遣いが響く。
何度も激しく咳き込みながら、レイアはシーツを握り締めた。
ギリギリだった、となぜか安堵した。
エディの馬車が門を出た頃、発作が始まったからだ。
咳が止まらない。
サイドテーブルの水差しに伸ばした手が滑って、
床に水をばら撒いてしまい、和らげるための薬も飲めない。
レイアの手は、そのままナイフを握った。
激流で溺れる者のように、必死で握り締めた。
肌が裂けて血が滴る。
その痛みが意識を保たせた。
吐いた血でシーツは真紅に染まっている。
蹲って耐えるうち、レイアの頭の中にはもう、
エディの微笑しかなかった。
(……エディ……)
ようやく咳が治まり、肩で息を整える。
体を投げ出し、懸命に眠りへの糸口を探した。
(エディ……結局一度も言わなかった……口付けさえ、交わさなかった……)
瞼を押し上げるだけの力はもはやなかった。
意識が徐々に穏やかになり、やがて激しい睡魔が訪れた。
これが「死」か、とレイアは思った。
(愛している……エディ。お前を……お前だけを……)
レイアの唇が、微かに動く。最期の言葉だった。
「離さないでくれ」と。
おわり
2005/01/22 ASAMI KAMIO
(2006年2月22日発行 個人誌より転載)
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